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日本酒テロワール_龍力の取り組み

テロワール(Terroir)という言葉をご存じでしょうか?

もともとは「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉で、ワインの葡萄畑を取り巻く自然環境要因全てを意味します。ワインには地域、葡萄畑ごとの個性が反映され、それぞれに特有の個性は、気象条件(日照、気温、降水量)、土壌(地質、水はけ)、地形、標高などに影響されます。そのため、どこの畑のどんな環境でいつ(ヴィンテージ)育てられた葡萄を使って仕込んだのかを重視します。

日本酒に目を向けると、山田錦、雄町、五百万石といった酒米の種類については重視されますが、山田錦の特A地区、赤磐雄町などの一部を除いて、育成場所はさほど意識されていませんし、米の当たり年といった言葉も聞きません。

そんななか、テロワールという言葉を積極的に用い、特定産地の酒米にこだわった酒造りをしているのが、「龍力」で知られる本田商店(兵庫県)です。5代目社長の本田龍祐氏にお話を伺う機会があったので概要をご紹介します。

本田商店は、"良い酒造りは、良い米作り"という信念のもと、原料米の85パーセントに兵庫県特A地区産の山田錦を使っています。加えて、特A地区の中でも特に土壌条件の良い農家と専属栽培契約を結んで、生育方法や生育環境を工夫しながら最高の山田錦作りにも挑戦しています。

 

さらに、特A地区内の3エリアにおける土壌特性、成分の分析と、それらを活かした龍力ならではの山田錦テロワールの開発にも取り組んでいます。以下は、最高品質の山田錦が栽培される特A地区の社地区、東条地区、吉川町の3エリアの分析結果です。

龍力
[龍力テロワール]

1.社(やしろ)地区

下層土壌は、粘土鉱物や砂岩、礫が多く含まれ、水はけがよく、土壌からくる影響が少ない為、「山田錦」の品種としての味わいである「甘みがあり、苦み、渋みが少ない」と特長が出る。その為、香りが穏やかで口当たりが柔らかく、まろやかさを感じる酒になる。

 

2.東条地区

表層から下層まで一貫して粘土層です。礫はほとんど見当たらず、データによるとCEC(土壌の保肥力)の数値が高く養分が多く含まれており、秀でた栽培土壌。そのため、香り、味わい、酸、余韻のバランスが良く、全体的に滑らかさを感じる酒になる。また長期熟成にも耐えうるしっかりした酒になる。

 

3.吉川(よかわ)町

K(カリウム)やMg(マグネシウム)を多く含み、CEC(土壌の保肥力)の数値も高く、地力の強いエリア。土壌が還元状態であるため、粘土が青灰色をしており、強い養分がある事がうかがえる。酒は、酸がしっかりとあり、全体的に濃厚な味わいとなる。大吟醸など香りの高い酒や、生など酸を大事にする味わいの、厚みのある酒になる。

 

私もこれら3エリアで育成した米で仕込んだ酒を試飲してみました。3本の酒はテロワールのみが異なり他は全て同じ造りの純米酒を1年半熟成したものです。それぞれの特徴は、本田商店の上記分析その通りですが、あえてコメントを付け加えるとしたらこんな感じでしょうか。

 1.社:やわらかくまろやか、

 2.東条:社よりさらにまろやか、

 3.吉川:しっかりした酸味と高い香りがある

テロワールを意識した初の日本酒造りに取り組む本田商店。

異なる地域のブドウ園、または同じブドウ園の異なる区画のワインの違いを何世紀にもわたって観察し、作る場所の独特の環境を示す用語として、テロワールの概念を形成したフランスのワインメーカーに比べればその取り組みはまだ始まったばかりかもしれませんが、どのような形で実を結ぶのか楽しみです。

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