⒉リトルトーキョー(1)

 

シャワーの後、”地球の歩き方”を広げてみた。ロサンゼルスの項をみると日本人が集まるホテルがいくつか紹介されている。リトルトーキョーの近辺に多くあるようだ。やっぱり最初は日本人街の近くがええか。僕はいくつかの紹介文を読み、「加宝」というホテルに目星を付けた。心が決まると眠くなってきた。いつのまにか夜11時を過ぎていた。

 

朝起きるとシャワーの音が聞こえた。朝シャワーを浴びるんか・・・。森田はここでの生活にすっかり馴染んでいるようだ。シャワー室から出てきた森田に、「今日からホテルに泊まるわ」と告げた。

 

「何でぇ?えれぇ急じゃなぁ。」「そがん急がんでももうちょっとおったらええが。」「大家のおばはんもええ言うとるでぇ。」「遠慮せんでもええのに。」 

 

森田はしばらくの間引き留めてくれたが、僕の気持ちが変わらないと知ると学校が終わったら送ると言ってくれた。でも僕はバスで行こうと決めていた。迷惑をかけたくないのもあったが、ここから先は自力でやりたかった。

 

8時頃家を出て、大通りのバス停で待っているとロサンゼルス市街行と思われる大型のバスが来た。路線番号頼りなので少し不安だ。バスに乗るとすぐに運転手にたどたどしい英語でロサンゼルスの中心街に行くか、と尋ねた。イエスと言ったのは聞き取れた。ほかにもいろいろしゃべっていたがさっぱりわからない。とりあえず空いている席に座った。乗客は10人ぐらいだった。老人と黒人ばっかりだ。バスは結構きれいだった。

 

しばらくして日本のバスには必ずある、降車を知らせるための呼び鈴がないことに気付いた。どうやって降りるんだろうと周りの様子を窺っていると、斜め後ろのおばあさんが窓の下の黒いベルトを押した。すると次のバス停でバスが停車。おばあさんはよたよたと降りて行った。どうやらこちらの呼び鈴のボタンは窓の下に張り付けられたゴムベルトのようだ。右も左もわからない状況では、「その場でいちばん頼りになりそうな人に聞く。」「周りの人がどうしているか見て真似る。」のが1番いい。それから後、僕はずっとそうした。