⒔ソルトレイクシティ(3

 

町中の店が閉まっていたのは感謝祭の為だったようだ。雪の為歩き回ることもできないので、パイプオルガンの演奏を聴いた後、結局デポにもどった。電光掲示板の前でバスの時間をチェックしていたとき、学生風の東洋人がおどおどとこちらの様子を窺っているのに気付いた。何だろうと思っていると、「あの~・・・、日本人ですか・・・」と、おそるおそるという感じの小声で話しかけてきた。そうですと答えた瞬間、打って変って彼の態度はなれなれしいと言っていいほど親しげになった。久しぶりに日本人に会えてよほどうれしいのだろうか。

 

二言三言ことばを交わした後突然、「ちょっと荷物を見ててもらえない?」と彼は言った。そして自分のスーツケースを僕の前に押し出すが早いかどこかに行ってしまった。トイレにでも行ったのだろうと思っていたのだが、いつまでたっても戻ってこない。僕は、何かあったのかと心配になったがその場を動くわけにもいかず寒いロビーで彼を待ち続けた。結局彼が戻ってきたのは1時間後だった。そして、悪びれる風でもなくごく簡単な礼を言うと、荷物をもってあっという間に消えた。

 

せめて理由を説明して納得させて欲しかった。何とも言えない空しい思いが後に残った。僕は不快な気持ちを振り払うため、よほどの事情があったのだろうと思うことで自分を納得させようとした。

 

こんなにひどいのは後にも先にもこの1回きりだったが、旅行中に出会った日本人の中には、こんなところまで来て日本人に会いたくないといわんばかりに露骨に嫌な顔をする者、妙に馴れ馴れしくあつかましい者、が少なからずいた。身内意識が強い故だろうか。それとも旅慣れていないせいなのだろうか。いずれにしても日本人同士とはいえ他人であることに変わりはない。過度な甘えは慎むべきだろう。外国人、日本人を問わず誰に対しても敬意と節度をもって接することを心がけようと強く思った。