⒓サンフランシスコ(1

 

出発まで1時間半。長い待ち時間ではあるが物珍しさできょろきょろしているうちに意外に早く出発時間になった。サンフランシスコ路線は人気のようで乗客は多い。乗り切れなくなったらどうするんだろうと思ったが、乗客が溢れた場合は何便でも増便を出すそうだ。乗れないという事態は決して起こらないとのこと。予約不要でいつでも乗れるのはありがたい。さすがアメリカは豊かだ。

 

車内は広くて結構きれいだ。座席もゆったりしていて乗り心地は悪くない。いよいよアメリカ一周の旅が始まる。バスはゆっくりとロサンゼルスの街を抜けて行った。バスから見る街は静かできれいだった。フリーウエイをしばらく走るとあたりは真っ暗になった。逆に、街中で真っ黒に見えた空は群青色を濃くした色に変わった。10月下旬の空は澄み渡り一面星に覆われている。バスは真直ぐにどこまでも続く道を延々と走った。

 

目が覚めるとバスは深い霧の中を走っていた。窓の外は真っ白で何も見えない。しばらくするとサンフランシスコのデポに着いた。ここはロサンゼルスと比べるとかなり小ぶりだ。腕時計を見ると6時少し前だった。あたりは真っ暗だ。途中のバス停で降りたのか乗客は10人程に減っていた。それぞれ行先が決まっているのだろう降車すると皆すぐにいなくなってしまった。ターミナルの建物は閉まっており中に入れない。

 

僕は真っ暗なダウンタウンのど真ん中に1人取り残されてしまった。最初に頭に浮かんだのは、バスターミナルの周りはどこも治安が悪いという言葉だった。右も左もわからない治安の悪い場所で早朝路頭に迷う。旅の第1歩としては強烈だ。街は静かで、霧に覆われていた。僕はデポのベンチで明るくなるのを待つことにした。おかしな人が通りかからないことを祈りながら・・・