⒑アメリカ一周の旅へ

 

英語を勉強しながら楽しく気楽な生活をここで満喫することにももちろん意味はある。特定の街に定住し周りの人間と深く付き合うという生活からも学ぶべきことは多い。しかし、それは僕がアメリカに来た目的とは違う。僕は少しでも多くのものを見、多くの人と出会うことにより、広い世界を肌で感じるために旅へ出た。結局僕は、いろいろ理屈をつけて楽な道に逃げようとしているのではないか。そう考えると、居ても立っても居られなくなった。今すぐ出発しなければだめだ。ぐずぐずしていては決心が鈍る、と思った。

 

翌日、ホテルをチェックアウトすると、フロントへ荷物を預けてアダルトスクールへ最後の授業を受けに行った。授業終了後、先生に今までのお礼を言い今夕グレーハウンドバスで出発すると伝えた。先生は、せっかく授業に馴染んできたところなのに残念だ。でも、すばらしいことだからがんばれ。旅行が終わったらまた学校に戻って来なさいと言った。30代後半ぐらいのちょっときれいな優しい先生だった。クラスメートも口々に応援してくれた。このアダルトスクールに通ったのは1週間強だったが、みんなと別れると思うと少しさびしかった。

 

その後しばらく街を散歩してから預けた荷物を受け取りにホテルへ戻った。4時頃だった。事前に確認したバスの出発時間は夜8時だ。時間があったのでとりあえずロビーで時間をつぶすことにした。そこへ何度か話したことがある日本人の泊り客がやって来た。30歳前後の痩せ型の男性だ。茶色の革ジャンとサングラスが遊び人っぽい。ロサンゼルスが好きで会社の休暇を利用して遊びに来ているらしい。一週間程度の予定でここに滞在中とのことだ。今夕グレーハウンドでサンフランシスコに出発するというと、バスターミナルの周りは治安が最悪だからタクシーで行ったほうがいいよと教えてくれた。確かにグレーハウンドのターミナルは基本的にダウンタウンの中心にあり、大概そこはその街で最も治安が悪い。ガイドブックにも気をつけようと書いてあった。

 

とはいっても、この先のことを考えるとできるだけ出費は押さえたい。僕はタクシーを避け、ターミナルの近くを通るローカルバスで行くことにした。安全を考え少し早目の5時半頃ホテルを出た。