福島県二本松市にある大七酒造を訪ね、プレミアム見学コースに参加した。大七酒造は1752年(宝暦二年)創業の老舗であり、日本酒好きなら一度は耳にしたことのある名門だ。生酛造りを今なお守り抜くとともに、独自の工夫や革新を重ねてきた蔵である。酒造期を外れた時期の訪問ということもあり、静かな環境の中普段はなかなか見られない内部までじっくり見学することができ、約80分の充実した時間を過ごすことができた。

大七酒造の本社に着くと、まず目に飛び込んできたのは正面の山肌に大きく掲げられた看板だ。落ち着いた町並みの中でひときわ存在感を放ち、「ようこそ大七へ」と迎えられたような気持ちになる。
見学は、仕込み水の紹介から、原料米の説明や精米、酒母づくりのための施設等を工程順に回る。案内してくれた斎藤さんは親しみやすい語り口で丁寧に説明し、質問にも一つひとつ分かりやすく答えてくれるため工程がイメージしやすかった。

大七酒造といえば「生酛造り」。酵母を自然に育てるこの手法は、手間と時間を要するが、複雑で奥深い味わいを生み出す。その際重要な役割を果たすのは酵母や乳酸菌をはじめとする蔵に住む様々な菌。大七では新しい蔵を建てる際に、旧蔵の壁を菌ごと移築したという。酒造りの生命線たる菌を大切にする気概と覚悟を見た気がする。
生酛造りとともに同蔵の酒質を支えるのが「超扁平精米」という独自の精米技術。米の雑味を減らすと同時に旨味を残すための高度な技術である。説明を聞いているだけで酒造りにかける想いが伝わってくるようだ。また全国的にも珍しい「木桶仕込み専用の仕込み蔵」を有している点も、大七の大きな特色だ。木が呼吸し、微生物が生きる空間が酒に与える複雑な要素を尊重しているのだろう。実際に桶を目にすると、木の温かみが醸す不思議な安心感を覚える。

見学を通して最も印象に残ったのは仕込み蔵に祀られた神棚の上面に天窓が設けられ、松尾様に自然光が注ぐように設計されていたことだ。最新鋭の設備だけでなく伝統や文化を重んじる姿勢がすばらしい。酒造りが単なる産業ではなく、自然や神仏との共生の中で営まれていることを改めて感じた光景だった。
見学の最後は利き酒の時間。試飲室で7種類の酒を味わった。純米酒や純米大吟醸から梅酒まで堪能した。どれも生酛らしい骨格ある旨味と伸びやかな余韻のある美酒だ。
土産として10年熟成の純米酒「不倒翁」を購入した。見学の余韻を楽しみながらじっくりと味わいたい。
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